遊覧船の遭難2024年03月29日 08:24

2022年5月22日
会社から、不要になった手回し発電機付きラジオを貰いました。
Portable Radioを思い出しました。この場合のRadioは無線通信システムを意味します。(電波のアプリケーションとして、ひとの命のかかった『通信』が先にあり、これがRadioを呼ばれ、次に娯楽の『放送』ができて、放送用受信機もラジオと呼ばれるようになりました)
Portable Radioは携帯無線電信。本船を放棄するとき、無線室から持ち出してライフボートに積み込む手回し発電機付きモールス送受信機。
発電機を回す奴から体力を無くして死んでいく、と古参の乗組員に脅されました。でも、発電機を回すのは通信士ではないので、通信士の私は心配ありません。
海に落ちたら、北の海なら体温が低下して数分、南の海なら鮫が食いに来るからやっぱり数分、とも言われました。 もちろん彼に遭難経験があるわけでは無く、遭難しない限りは新米乗組員へのジョーク、遭難したら現実。


遊覧船の遭難通信手段のひとつが携帯電話とは、めちゃめちゃ。だって、利益が一番の民間通信会社に遭難通信を任せる?加えて、通信圏を確認していないというデタラメな規制! 
そのくせアマチュア無線はダメとか、どういうことなのか?(アマチュア無線で遭難通信をやるのは『目的外通信』 遭難、緊急時は、目的外通信でもお上のお仕置きは無いと思うけど。要するに、遭難通信をやるためにアマチュア無線を予め設備しておくのはダメってこと。しかし、通信圏外の携帯は良いわけ?)

数十年前にフェリーが荒天の海で音信不通、安否不明、遭難かと大騒ぎになった事がありました。フェリーは低気圧を回避するために沖に舵を切って、結果VHF無線電話の到達距離を出てしまっただけで、無事でした。
低気圧を避けるために船が沖に逃げるのは原則。陸地側に逃げて低気圧が陸地側に来ると、船はそれ以上逃げようがないから。
つまり船には落ち度は無いんですが、強制設備がVHFという見通し距離しか届かない周波数の無線機。
その後、法令が改善されたかどうかは知りません。遊覧船とフェリーとはまた乗客数や航行区域も違ったりして、適用される法令も違うとは思いますが。

既に40年以上前になりますが私が現役船員の頃、北欧ではライフジャケットで浮いているだけでは生存できないからとイマーションスーツ(保温のため体全体をカバーする)が開発されましたが、今どの様に普及しているのか?
ただ、遊覧船で乗船時にこれを着用するのは現実的ではなく、貨物船用ですね。

EPIRB(遭難・緊急時、海に落とすと自動で位置を人工衛星に通知する無線標識)なるものもSOSが廃止された昔からありますが、遊覧船には強制されていないようです。

貨物船には、船の位置を補足するアメリカコーストガードのAMVERというシステムもありました。

これも40年以上前ですが、天気予報が民間に開放されて、遠洋航路の貨物船に気象状況に対し安全な航路を推薦するサービスが始まりました。
もちろん船でもFAXによる地上解析図、高層図、それらの24,48,72時間予想図、波浪図、静止気象衛星からの雲写真、文章によるGale Warning(強風警報)、Storm Warning(暴風雨警報)等を受信しており、航路は最終的にキャプテンが推薦航路も参考にして判断します。

推薦航路サービスは平水区域の遊覧船には適用できませんが、船や海に素人の社長が経営判断で出港を決めるのは信じられないことです。

遊覧船は通信手段にしても位置通報にしても孤独。航路が陸に近いから法令・規制が緩いのは仕方ないのか。命の数を数えたり比較出来るかどうかは知りませんが、今般の遊覧船の乗員・乗客は26人、私が貨物船に乗っていた頃の乗員は25人前後、いろいろ改善の余地あり。
犠牲者を悼みます。

泳げない私は、冬の時化ている北太平洋を片舷30度も傾くような空の材木船で航海するよりも、浦賀の渡し船に乗る方が恐い。